TRANCE WITHOUT MOVING 第1回 ジェフミルズにとっての「メトロポリス」

TRANCEWITHOUTMOVING。ここでは景色を見せてくれるエレクトロミュージックを中心に題材に与太話を繰り広げていきたい。でもその景色がエレクトリックなものであると僕が判断した場合ジャンルを問わず題材にしていきたい。なんだかもうこじつけ感満載だ(笑)。

第一回目はジェフミルズの「メトロポリス」を近代建築やデザインを語るうえで欠かせないバウハウス等に触れながら考えていきたい。

まずジェフミルズはデトロイトテクノシーンを代表するDJ、アーティスト。彼はミニマルテクノを確立した。ミニマルテクノとはドラムパターンやメロディーの基本形を軸として極力音の味付けを避けつつその基本形の音をループしながら展開するテクノである。あまりメロディアスじゃない典型的な四つ打ちのテクノと思ってもらえればよい。ミニマルテクノはミニマルミュージックから影響を受けてできた音楽と言える。そのミニマルミュージックとは1960年代にスティーブライヒ、テリー・ライリーがアフリカの民族音楽やガムランの繰り返されるリズムから着想を得てできた音楽である。そう考えるとミニマルテクノが一見単調な音楽であるにもかかわらずいまだに一定の支持を得ているのはシンプルな音の繰り返しがもたらすものに影響があるといえる。その繰り返しにより頭の中の雑念が消え快感を催す脳内物質が分泌される。セックスしている時と似た状態になるのだ。これがいつも彼のやっている音楽なのだが今回紹介する作品は少し違う。

今回紹介する作品はそのジェフミルズが映画「メトロポリス」にインスパイヤされて作った作品であり決して本来の意味でのサウンドトラックではない。彼の脳内ではサウンドトラックということになっているのかもしれないが。なんせ彼の中では2006年から3年間火星を旅したことになっているような人だから(笑)。このメトロポリスという映画は第一次世界大戦後の1927年にユダヤ人のフリッツラング監督によって制作されたドイツSF映画の金字塔的作品。

このジェフミルズ的サウンドトラックについて僕の感想をいうと「サウンドトラック」というのもあるけどいつもより空間的でビートに質感がない印象をうけた。どちらかというとデトロイトテクノの有する身体性を弱くしてより観念的でありながらジャーマンテクノとも違う感じ。プラネタリウムとか閉ざされた宇宙空間を想起させる統一感のある音というか。彼はかつて建築学を学んでおり、この映画の美術セットにはバウハウス的手法が用いられていることを知っていることからそれを意識した作品作りになっていると思われる。そう考えないと空間性ある音の説明がつかない。

ここでバウハウスについて説明すると、1919年、ドイツ・ヴァイマルに設立された、工芸・写真・デザインなどを含む美術と建築に関する総合的な教育を行った学校。また、その流れを汲む合理主義的・機能主義的な芸術を指すこともあるというもの。シンプルなデザインが特徴である。

僕がこのバウハウスのデザインを見た時感じたのはバッハの音楽に似ているということだった。シンプルがゆえにメカニカルな部分が強調され、調和のとれたデカルト的世界観を想起させる。それはどこかメトロポリスの近未来・無機質的世界観にも通じるものがある。そう考えると彼はこの作品で知ってか知らずかバッハの近未来的解釈ををやりたかったのかもしれない。 第2回TRANCEWITHOUTMOVING TRAVELWITHOUTMOVING冒頭に戻る inserted by FC2 system