A MOVINGPHOTOGRAPH 第2回 ヴィム・ヴェンダース「PICTURES FROM THE SURFACE OF THE EARTH」

第2回目はヴェンダース。

この写真集はタイトルの通り世界中のいろんな風景を写真におさめたよくありがちなもの。でもなかなか味わい深い内容となっている。

ヴェンダースはドイツ人の世界的な映画監督。なので彼が写真集を出すというのは意外だという人もいるかもしれない。僕はそう思わない。今まで見た彼の映画を思い出すとき、話の筋や役者の演技や個性よりも風景やシーンの画像全体が真っ先に浮かぶ。そういう意味で彼は言葉よりも絵で語る映画作家なんだと思う。そしてその映像の印象は静的な感じを受ける。彼の写真もそれと同じ。とするとそれは一見前回僕が述べた写真的なものとは違うように思える。でもやはり写真的なのだ。以下理由を述べる。


まず映画について。パリ、テキサスにしても都会のアリス、回り道、さすらいといったロードムービー三部作にしても映像の中に詩的な物悲しさを捉えることが出来ている。次に写真も風景が時より見せる切なさを逃さず作品に吹き込むことができている。そういう被写体が見せる瞬間的な表情を上手くとらえ作品に生命を与えている意味で彼の写真も映画も「写真的」なのだ。

ウィキペディアによると彼はアメリカ文化の影響を受けているらしい。上記の彼の写真や映画のジャケットを見る限り、おそらく彼はアメリカの画家であるエドワードホッパーの影響を受けているのだろう。彼の絵はアメリカの日常風景を描いたものが多いがやはりヴェンダースの写真や映画と同様にどこか物悲しい。例えば上記の写真左は日曜日の早朝という作品だが、みんなが楽しみにしている日曜が訪れ、後は月曜といういつもの単調で憂鬱な日常に向けてカウントダウンが始まるわびしさが伝わるし写真右の彼の代表作のナイトホークスにしてもいろんな背景を持った人たちが明日の憂鬱や気怠さをかかえたままどこに行くともなしに仕事帰りに店でたたずむ物寂しさが伝わるといった具合に。そのもの寂しさがシンプルな建物といった静的なものの佇まいを通して表現されているのだ。ヴェンダースのロードムービーや写真においてもそういった表現が上手くできている。こういったシンプルなタッチで描かれる建物や風景が醸し出すもの寂しさはどこか小津作品の空気感にも通じるところがある。実際、ヴェンダースは小津安二郎の作品、とりわけ東京物語の影響もかなり受けている。東京画という東京物語のスタッフを訪ねるドキュメント作品を撮っているほどだ。東京物語は尾道の老夫婦が息子や娘を訪ねて上京するものの彼らに慕われるどころか厄介者扱いされさびしく故郷に戻るという内容でテーマが日本の家族主義という一つの時代の終わりであり物悲しいものだ。この映画はいまだに日本の広い層の映画好きや年配の方にも人気があるしそうじゃない人の多くもこの作品が日本的であることにはあまり異論がない。そんなヴェンダースが作る作品は映画にしろ写真にしろ基本的に日本人の感性に合うと思う。なので彼の映画のファンもそうじゃない人もこの写真集を買って見てみることをお勧めする。


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